BOBuilding(ボビる):マーチング部の顧問室

【Drill】ドリルを読み解く! なぜDCIはドリル中心から総合演出へと変わったのか?

Photo by Drum Corps International

ジンガリブルベイカーが活躍した時代、DCIのビジュアル表現の中心には、フィールド全体を使った連続するフォームの変化があった。完成した形だけでなく、次の形へ組み替わっていく過程そのものを見せる。音楽の流れを形と動きによってフィールド上に描くドリルが、ショーの中心的な表現を担っていた。

現在のDCIでは、ドリルに加えて、プロップ、衣装、音響、コレオグラフィーなどを組み合わせ、ショー全体で効果を生み出す総合演出が主流となっている。昔はドリルだけ、現在は総合演出という単純な区分ではない。その中で、何がショーの中心を担い、どのような表現が高く評価されるのかが変わってきた。なぜDCIは、ドリル中心から総合演出へと変わったのか?

フォームの変化がショーの中心だった時代

2004年にDCIが公開した審査解説では、ビジュアル・アンサンブルの審査員は、完成したフォームの整列やバランスだけでなく、音楽の視覚的な解釈やフォームが展開していく過程も評価すると説明されている。優れたコーは、大きく整った形を見せるだけではない。観客がどのように移動したのか気づかないほど自然にデザインの中を動き、フォームからフォームへ滑らかに移行していく。完成したセットだけでなく、そこへ至るトランジション自体が重要な評価対象だった。

ただし、当時のDCIにコレオグラフィーやプロップが存在しなかったわけではない。同じ審査解説でも、カラーガードによる演技、ダンス、身体表現やプロップの使用が、ショー全体を高める要素として挙げられている。現在との違いは、それらが存在したかどうかではなく、連続するフォームの変化がショーの中心的な表現を担っていたところにある。

2012年に変わった審査制度

2012年、DCIは審査制度を全面的に改定した。ジェネラルエフェクト(総合効果)を40点とする配点を維持しながら、審査内容を整理し、より分かりやすい仕組みを目指した。当時のDCI芸術監督マイケル・セザリオは、コーの表現が今後どのように変化しても対応できる「将来に備えた」制度にすることが目的だったと説明している。現在だけでなく将来においても、コーがフィールドへ持ち込む革新的な表現を評価し、報いるための制度だった。

この変更が、プロップやコレオグラフィーを増やすよう求めたわけではない。審査制度が特定のスタイルを指定したのではなく、新しいスタイルが生まれた時、それを従来のドリルの文法から外れたものとして扱わず、評価できる方向へ制度を開いたのである。

音楽とビジュアルを一体で評価する

さらに大きな節目となったのが2014年だった。この年、ジェネラルエフェクトの審査員は、音楽とビジュアルをそれぞれの担当領域だけで見るのではなく、両者が結びついて生まれる効果についても、領域を越えて評価できるようになった。DCIはこの変更を、観客がショーを受け取るように、プロダクション全体を評価するためのものだと説明している。

音楽によって生まれた効果なのか、ビジュアルによって生まれた効果なのかを分けるのではなく、その組み合わせによって生まれた瞬間を評価できるようになった。ドリルだけで効果を生み出すのではなく、音楽、動き、演技、衣装、プロップ、音響などが一体となった総合演出を評価しやすい土台が整ったのである。

総合演出を先行させたブルーデビルズ

審査制度が変化する以前から、ブルーデビルズはプロップや演技を含むショーデザインを進めていた。2010年の『Through a Glass, Darkly』では、フィールド上を移動する多数の鏡によって、メンバーやフラッグを映し出し、実際の人数や空間が拡張されたような視覚効果を生み出した。2012年の『Cabaret Voltaire』では、プロップ、演技、音楽を組み合わせ、絶えず姿を変えるシュールな作品世界をフィールド上に創り出している。

2014年の『Felliniesque』では、音楽とビジュアルを一体としてショー全体を見るジェネラルエフェクトの審査において、ファイナルの4人すべての審査員から満点を獲得した。ブルーデビルズは、フォームの変化だけでなく、音楽、登場人物、衣装、演技、装置を組み合わせ、ひとつの作品世界を構築する方法を早い段階から成功させていた。

変化を定着させたブルーコーツ

その流れを、より明快で観客にも伝わりやすい形にしたのがブルーコーツだった。2014年の『TILT』では、フィールドを斜めに区切るライン、傾いたフォーム、三角形のランプ、衣装、録音音声、電子音響まで、ショーを構成するさまざまな要素を「傾き」というひとつの発想で統一した。音楽、ドリル、装置、音響を別々に組み合わせるのではなく、最初から同じコンセプトのもとで設計していた。

そして2016年の『Down Side Up』では、従来のユニフォームと帽子をなくし、身体の動きを見せやすい衣装と巨大な赤いランプを使用した。メンバーはランプの上や周囲で演奏し、滑り降り、コンテンポラリーダンスの影響を受けたボディワークを展開した。ブルーコーツはジェネラルエフェクトで2位のブルーデビルズを0.55点上回り、初のDCIワールドチャンピオンとなった。すべてを最初に始めたわけではないが、総合演出型のショーを優勝へ結びつけ、新しい成功モデルとして定着させたのがブルーコーツだった。

審査方法と成功例がデザインを変える

競技では、高く評価された作品や方法が、次のショーデザインへ影響を与える。プロップを使えば、フィールド上に明確な焦点を作り、メンバーをフィールドの一部に密集させて音楽の重要な瞬間を強く見せることができる。ボディワークを取り入れれば、マーチングやフォームの変化だけでは表現しにくい感情や物語を身体によって伝えられる。音響技術の発達によって、音の位置、広がり、質感までショーデザインの一部として扱えるようになった。

一方で、メンバーをフィールドの一部に密集させて見せ場を作る時間が増えれば、フィールド全体を使って連続的にフォームを変化させる時間は、相対的に少なくなる。2025年に『The New Yorker』がアメリカの高校マーチングを取材した記事でも、審査員が技術的な完成度や新しい発想を評価するほどショーは高度で複雑になり、デザイナーは複数の見せ場を作りながら、観客の視線を意図した場所へ導いていると紹介されている。大会や審査制度はDCIとは異なるが、競技で評価されるものがデザインの方向へ影響を与えるという点では共通している。

DCIで主流だから最新なのか?

総合演出によって、DCIの表現の可能性が大きく広がったことは確かである。しかし、現在のDCIで多く使われている方法だからといって、それがマーチングにおける唯一の最新形であり、過去のドリルより客観的に進んだ表現だとは限らない。現在のスタイルは、デザイナーの発想だけで自然に生まれたものではなく、DCIの審査方法、競技環境、音響技術、制作体制、観客の反応、そして競技で成功した作品など、複数の要因に適応しながら形成されてきた。

審査方法や競技条件が異なる大会では、当然、評価される表現も変わる。そこではDCIとは異なるフォームの変化や演出方法が発展し、別のドリルデザインやショースタイルが生まれる。現在のDCIで主流であることと、すべてのマーチングにおける最新の表現であることは同じではない。ジンガリやブルベイカーに代表される、音楽を連続するフォームの変化として見せるドリルも、その価値を失ったわけではない。

大型プロップを使用しない試みも現れている

総合演出型のショーが定着して約10年がたった今シーズンには、ボストン・クルセイダーズやサンタクララ・バンガードのように、大型プロップを使用せず、メンバー自身の動きやフィールドの使い方を強く見せる作品も現れている。サンタクララ・バンガードは、縄跳びを使ったボディワークで、身体性、運動性、作品のテーマを結びつけている。ただし、これは単純に過去のドリルへ戻る動きではない。大型プロップを使用しなくても、身体表現やメンバーをフィールドの一部に密集させた見せ場を中心に構成することはでき、必ずしも連続するフォームの変化がショーの中心になるわけではない。

現時点で、こうした方法がジェネラルエフェクトで特に高く評価され、新たな主流になりつつあるとはまだ言えない。サンアントニオでは、ブルーコーツがすべてのキャプションを制し、2位のボストン・クルセイダーズに2点以上の差をつけた。一方、ボストンはジェネラルエフェクトで4位ながら、音楽部門を中心に得点を積み重ねて総合2位となった。大型プロップを使うかどうかではなく、コンセプト、音楽、ドリル、身体表現、プロップ、音響などをどれだけ高い完成度で結びつけ、観客へ効果を届けられるかが、現在も評価を大きく左右している。

ドリルデザインの本質とは?

DCIがドリル中心から総合演出へ変わったのは、ドリルの価値が失われたからではない。審査制度と表現手段が広がり、デザイナーが扱う領域が、フォームと動きから、音楽、身体、装置、衣装、音響を含むショー全体へ拡張されたためである。フォーム中心のドリルと総合演出は、優劣で分けるものでも、本来対立するものでもない。

重要なのは、流行している方法を使うことではなく、その作品に何が必要なのかを考えること。音楽をフィールドの中でどのように見せ、メンバーの動きによって観客の視線と感情をどこへ導くのか。表現方法が変化しても、音楽、フォーム、動き、感情を結びつけ、観客に届く瞬間を創るというドリルデザインの本質は変わらない。

by ボビー大槻(Bobby Ohtsuki

※本記事は、DCI公式「A DCI judging primer」「New judging system ready to debut June 16」「Adjudicators freed to judge ‘more like an audience member’ in updated system」「Spotlight of the Week: 2010 Blue Devils」「Donald Angelica general effect caption award winners of the 2010s」「Spotlight of the Week: 2014 Bluecoats」「Spotlight of the Week: 2016 Bluecoats」「Decoding Vanguard’s 2026 production, “With Reckless Abandon”」「#DCI2026 corps show reveal tracker」「Bluecoats sweep captions to capture DCI Southwestern Championship」「DCI Southwestern Championship Full Recap」および『The New Yorker』「High-School Band Contests Turn Marching Into a Sport—and an Art」をもとにまとめています。

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